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富山地方裁判所 平成7年(ワ)273号 判決

富山県砺波市中野二二〇番地

原告

立山酒造株式会社

右代表者代表取締役

岡本巌

右訴訟代理人弁護士

大森文彦

右同

島谷武志

富山市東老田一一一八番地

被告

有限会社古川酒販

右代表者代表取締役

古川義昭

右訴訟代理人弁護士

内山弘道

主文

一  被告は、その販売する日本酒の容器、包装並びにその広告に「越乃立山」という表示を使用してはならない。

二  訴訟費用は、被告の負担とする。

事実及び理由

第一  原告の請求

主文同旨

第二  事案の概要

本件は、自己の製造・販売する日本酒に「立山」「・・立山」の商標(以下「原告商標」という。)を付し、「立山」及び「銀嶺立山」の商標につき登録を有している原告が、「越乃立山」の商標(以下「本件商標」という。)につき登録を受け、右商標を付した日本酒を販売しようとしている被告に対して、本件商標は原告商標に類似し、これを使用して日本酒を販売することは原告の商品と混同を生じることを理由に、不正競争防止法に基づき本件商標の使用の差止めを求めた事案である。

一  争いのない事実

1  原告は、日本酒の製造・販売を主たる業務とする株式会社であり、株式会社になってからだけでも約九〇年間日本酒を製造・販売し、「立山」という表示を付した日本酒は原告の製造・販売する日本酒であることが富山県内において広く認識され、周知となっている。現在、原告は、「連峰立山」、「銀嶺立山」、「酉印立山」、「純米吟醸立山」、「吟醸銀嶺立山」、「純米原酒」などの商標を付した日本酒を製造・販売している。

2  原告は、昭和一三年に清酒を指定商品とする「銀嶺立山」につき、また昭和三三年に日本酒類及びその模造品を指定商品とする「立山」につき商標登録を受けた。

3  被告は、酒類の小売商であり、酒類製造免許を有していない。

被告は、平成六年に酒類(薬用酒を除く)を指定商品とする「越乃立山」の商標登録を受けた。これに対し、原告は、特許庁に商標登録異議申立てを行ったが、平成六年三月三一日、右異議申立ては却下された。

4  被告は、一旦若鶴酒造株式会社に対し、本件商標を付した日本酒の製造を委託したが、その後、若鶴酒造株式会社は、右日本酒の製造を行っていない。

また、被告は、平成七年八月末頃、原告に対し、近日中に右商標を付した日本酒を委託により製造し、被告が販売する旨を伝えた。

二  争点

1  本件商標は、原告商標に類似するか。

(原告の主張)

「立山」は、富山県にある山岳の名称であるが、本件商標の「越乃」の「越」は、北陸地方の呼称にすぎず、したがって「越乃立山」は、富山県の立山という意味を持つことになり、これは原告商標である「立山」の持つ意味と同様である。また、「越乃」は、北陸地方の酒造会社が商品の名称に付ける冠の意味合いに止まり、北陸地方の酒造会社間においては、商品等表示の識別には、「越乃」という冠を除いた名称(本件では、「立山」)こそが重要である。

したがって、本件商標は、原告商標と類似するものであり、被告が、本件商標を使用して日本酒を製造販売することは、取引者や需要者に原告の商品であるとの混同を生じさせることになる。

(被告の主張)

(一) 被告は、本件商標につき商標登録を得て商標権を有しているので、本件商標を使用して日本酒を製造・販売することは、原則として不正競争に該当しない。改正前の不正競争防止法六条は削除されたが、商標権の行使が権利の濫用にあたらない限り、従前と同様に解すべきである。

(二) 原告の商標である「連峰立山」の「連峰」、「銀嶺立山」の「銀嶺」などの文字はいわゆる小印であり、「立山」の部分は毛書体の大文字により強調され、しかも縦書きであるが、本件商標の登録商標は、横書きで、構成文字は、同じ書体、同じ大きさ、同じ間隔で一体的に構成されており、両者は外観上容易に区別できる。

また、本件商標は、「コシノタテヤマ」とよどみなく一連に称呼できるもので、しかも「越」は北陸道を表し、観念上も全体として「北陸道にそびえたつ立山」の意味合いを生じるものであるから、称呼上も観念上も両者は区別できる。

加えて、原告商標を使用した商品のラベルには、原告商標とともに原告の商号が表示されており、このことからも、両者は区別できる。

2  営業上の利益の侵害のおそれの有無

(原告の主張)

本件商標を付した日本酒が製造・販売されれば、原告の商品との混同を招くことにより、原告に著しい財産上の損害が生じるとともに、原告が長年築きあげてきた「立山」ブランド、つまり原告商品に対する信用も著しく損なわれることになる。

(被告の主張)

争う。

第三  証拠

本件記録中の、書証目録記載のとおりであるからこれを引用する。

第四  争点に対する判断

一  争点1について

1  商標の類似性は、商標自体やこれを構成する文字等の外観、その観念、称呼により、両者を全体的に類似のものと理解されるか否かを、商標が使用される商品の購買者層における取引の実情に応じ、具体的に判断すべきである。

2  そこで、本件商標の観念を検討する。「越乃」の「越」は、北陸道(現在の新潟県、富山県、石川県、福井県)を意味する越乃国の略称であると認められ、よって、「越乃」は「北陸道の」を意味する語句であると認められる(甲一〇、一一)。また、「立山」という名称の山は、日本各地に存在するわけではなく、富山県と長野県にまたがって存在する北アルプス連峰を代表する特定の山(正確には特定の連峰)である。したがって、「越乃」は、単に立山の存在する地方の名称を表すに過ぎず、「立山」を修飾する語句ではあっても、「立山」に特別の意味を付加するものでも、また「立山」の意味を限定するものでもないと解される。したがって、「越乃立山」は、「北陸道に存在する立山」との意味であると解され、「立山」の観念と同一であると認められる。

本件商標の称呼は「コシノタテヤマ」であり、原告商標の称呼は「タテヤマ」であり、両者は形式的には異なる。しかし、「越乃」が前記のような修飾語であることを考慮すると、形式的な称呼の差があるといって、このことにより異なるイメージをもたらすものとは認められない。

3  そして、被告は、本件商標を付した商品を富山県内において販売することを想定しているから(乙四)、本件商標と原告商標との誤認混同のおそれの有無は、富山県内におけるものとして判断すれば足りる。ところで、原告が古くから日本酒を製造・販売し、「立山」という表示を付した日本酒は原告の製造・販売する日本酒であることが富山県内において広く認識されていることは前記第二、一、1記載のとおりであり、また、原告商標を付した商品は、富山県内において長期間にわたり販売されており、その出荷高は、平成四年から平成六年にかけて全国で約三〇位以内であるうえ、それ以前から富山県内の酒造業者の中では最大の出荷高であり、また、原告は、富山県内において、右商品につき新聞、テレビを通じて相当量の宣伝広告を継続して行なってきていることが認められる(甲三ないし五、六の1、2、九)。

以上によれば、原告商標は、少なくとも富山県内においては、かなり著名な周知性を有していると認められる。

4  右2、3で判示したところからすれば、本件商標は、原告商標と誤認混同されるおそれがあり、類似するものと認めるのが相当である。

なお、被告は、原告の商品ラベルに原告の商号が記載されているので誤認されるおそれはないと主張するが、商号は、ラベルの角に小さな文字で記載されていることが多いだけでなく、消費者は、商号ではなく商標を見て商品の同一性を識別するのが通常であるから、右主張は採用できない。

5  被告は、本件商標は商標登録されているので、本件商標を使用して日本酒の製造販売することは不正競争に該当しないと主張する。

被告の主張の根拠となる不正競争防止法六条の規定は、平成六年法律第一一六号による改正法で削除された。したがって、ある登録商標の出願前から周知性のある商標を使用してきた場合は、その商標の周知性は右登録商標の商標権を侵害して得たものでないから、周知商標の使用者は、不正競争防止法に基づき、右登録商標の使用差止めを求めることができるというべきである。

これを本件についてみると、本件商標の出願時点である平成四年一月当時、原告商標に周知性があったことは前記判示のとおりであるから、被告の右主張は、理由がない。

二  争点2について

争いのない事実4に記載の事実の他、被告は、現在でも本件商標を付した日本酒を製造・販売する意向を有していること(乙四、五の2)、前記判示のとおり、本件商標は、原告商標に類似し、これが使用された商品が流通に置かれれば、消費者が、原告の商品と被告の商品とを誤認するおそれがあるものと認められることからすれば、原告の営業上の利益が侵害されるおそれはあるというべきである。

第五  結論

以上によれば、原告の請求は理由があるので、認容する。

(裁判長裁判官 渡辺修明 裁判官 堀内満 裁判官 鳥居俊一)

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